トマト、真鯛、トラフグの3つに共通する秘密とは? ゲノム編集食品について

生物の遺伝子を操作する最新技術、「ゲノム編集」を利用した野菜や魚類が国内で流通し始めています。ゲノム編集食品は許可制ではないため、届け出(情報提供)だけで販売することができます。安全審査もしておらず、規制がなく、表示も義務付けられていないゲノム編集食品。我々消費者はスーパーなどで知らずに買ってしまう可能性があります。今回はゲノム編集食品について調査してみました。

ゲノム編集食品はトマト、真鯛、トラフグ

トマトはゲノム編集食品の第1号

2021年9月に種苗会社のパイオニアエコサイエンス(東京・港)が機能性成分「γアミノ酪酸(ギャバ)」の含有量を増やしたギャバ高蓄積トマトの販売を開始しました。

マダイのゲノム編集

水産ベンチャーのリージョナルフィッシュ(京都市)は、21年10月に肉厚にした可食部増量マダイの流通を開始しました。可食部が増量されたマダイ「22世紀鯛」は、筋肉の増加を抑制する遺伝子の働きを止めることで、より少ない飼料で肉付きが約1・2倍(最大1・6倍)になる魚です。

トラフグのゲノム編集

リージョナルフィッシュのゲノム編集食品、高成長トラフグ「22世紀ふぐ」は食欲を抑える遺伝子の機能を止めることで、一般的な品種の1・9倍のスピードで成長すると言われています。21年11月に流通を開始しました。

ゲノム編集とは?

「ゲノム編集」は、遺伝子を文章を編集するかのように自在に操作する技術で、世界中で研究が進められています。特定の遺伝子の一部だけを働かなくさせることや、従来の遺伝子組み換え技術よりも正確に別の遺伝子を組み込むことなどができます。今まで農作物などの品種改良を行うには、期待される性質を獲得するまでに何世代も掛け合わせることから長い時間がかかっていましたが、ゲノム編集の技術を使えばこのプロセスを大幅に短縮することができると期待されています。

ゲノム編集食品の安全性について

ゲノム編集とは、生物の遺伝情報が書き込まれた「ゲノム」の特定の部分をピンポイントで切断し、情報を書き換える技術です。遺伝子を操作する技術としては、1970年代に遺伝子組み換え技術が登場しましたが、これらは外来の遺伝子の導入を伴います。対して、ゲノム編集の場合、生物がもともと持つ遺伝子を働かなくするだけの操作もあり、このような変化は自然界でも起こり得るため、外部からの遺伝子導入を伴わない場合は、日本では遺伝子組み換えに該当しないと見なされました。ただし、規制の在り方は国・地域で違いがあり、欧州ではゲノム編集した作物は遺伝子組み換え作物として扱われています。日本での規制については2019年に遺伝子組み換えでないものは、食品としては厚労省に届け出ればよく、「安全性審査は不要」とされました。ゲノム編集食品である旨を表示する義務もないです。ただ、生物多様性の観点から農水省への情報提供は求められます。

遺伝子組み換えとゲノム編集

「遺伝子組み換え」とは、他の生物の遺伝子を挿入することで新たな性質を持たせる技術です。遺伝子組み換えされた生物には、ほとんどの場合「外来遺伝子」、つまり他の生物などの遺伝子が含まれています。1996年にトウモロコシや大豆などの遺伝子組み換え作物が商品として生産・販売されるようになってから25年以上経ちますが、未だに不確かな技術と言われています。これは遺伝子が挿入される場所や数の予測ができないからです。

新たに開発された「ゲノム編集」は、ゲノム(生物がもつ遺伝情報の全体)の中の狙った個所を改編するだけでなく、外来遺伝子を残さずに作物の品種を改良することができると言われます。ところがこのゲノム編集も挿入した遺伝子がどのように働くか解明できないことが多く、狙った場所以外で変異が起きたり、意図しない変異が起こる可能性が指摘されていて、ゲノム編集もまた不確かな技術と考えられています。

遺伝子組み換え作物は、食品としての安全性や環境への影響が懸念されることから規制の対象になっています。食品としての安全性審査や環境への影響評価、食品への表示が義務づけられています。しかし、ゲノム編集は、従来の品種改良された動植物とゲノム編集による動植物を見分けることは技術的に困難だからという理屈で、規制は必要ないことになっています。そのため、企業が新たなゲノム編集食品を開発しても、厚生労働省や農林水産省などと事前相談し、任意の届け出が受理されれば販売できるのです。そして消費者庁も、ゲノム編集食品に対する表示の義務化を行わないことにしています。

研究開発が行われているゲノム編集食品

現在、実用化をめざして研究開発が行われているゲノム編集食品として
① 芽などに含まれる毒素を減らした(食中毒を起こさない)ジャガイモ(理化学研究所・大阪大学・神戸大学の共同研究)
② 収穫量の多いイネ(農業・食品産業技術総合研究機構)
③ 養殖に適した性質のおとなしいマグロ(水産研究・教育機構)
④ 攻撃性を抑えた(共食いしない)サバ(九州大学)
⑤ 低アレルギー性の卵を産む鶏(産業技術総合研究所)のなど多くあります。
アメリカでは2019年2月に利用が始まった高オレイン酸大豆(カリクスト社)や、多収穫のワキシーコーン(コルテバ社)が開発中ですが、これらも表示されずに輸入され、私たちは知らずに食べてしまう可能性があります。

まとめ

ゲノム編集とは、遺伝子組み換え技術の次世代版として登場してきた新しい遺伝子操作技術です。人類史上経験したことのないこの技術をめぐり、未だ国内外で議論されていて様々な懸念が生じています。その中で日本では世界に先駆けて、2019年10月に、ゲノム編集食品を「解禁」し、2021年9月からゲノム編集トマトの販売を始めています。現実に行われていることはしっかり認識した上で食品を選んでいきたいですね。